klimbrothers’s 童話と絵ブログ

本当ハ面白イクリム童話と絵描きグスタフクリムのブログです。

伴侶

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考えたら、自分のためにイラストレーターになったわけではなかった。

人の描いた脚本、人の演出に隷従する年寄りの俳優になることが嫌になり

演劇をやめ、サウナでバイトしながらデザイン学校の夜間に通い始める。

明日に己の課題を持ち続ける年寄りになりたくて。

でも、本当はイラスト科に行きたかったくせに、そんな仕事ないなどと端から決込みデザイン科を選ぶ。

卑屈。

絵と詩を愛する彼女と出会い、『ずっと一緒に絵を描こう』とプロポーズするも

父親に『君にはアピールするものが何もない』と斬られる。

確かに。

しかし、ずっとずっと無努力で生きて来た自分でさえ

ここで頑張らなかったら、彼女の情熱、友人達の応援に応えなかったら

正真正銘、口先だけのいい加減な奴になると悟り

年齢をごまかして就職活動をする。

そして始まった。

イラストレーター。

バブル崩壊で解雇されて収入が十分の一になったり、

何の肩書きもないのに専門学校の講師職を得たり、

運、不運を繰り返しながらも二十年もイラストレーターをやり続けて来た。

己のためのただの妄想が妻のために現実になった。

そうだ。これら一切は妻のための・・・だったのだ。

こんな努力をする信念なんか己にあったか?

No!

今、その努力が限界に達しようとしている。

でも、ちょっと待てよ。

己の努力の限界か?

己の限界か?

笑わせるな!

もともとこんな限界、己とは何の関係もない、己の外で起こったことだ。

だってこの限界は己の信念の限界でもなんでもないぞ。

俺の知ったことではないぞ。

俺に出来ることは妻のためにやり続けるだけのことだろう。

もともと万事を保証するものなど何もなかったのだぞ。

そんなものなくてもやらなきゃ駄目だろ、嘘だろ、だから始めたんだろ。

己の限界に餓死など必要か?

No!

己の夢にそんな真剣な生真面目さなどない。

俺は気まぐれに絵が好きなだけだ。

己の努力に餓死など必要か?

何を言ってる! 何の保証もない努力を妻のために始めただけだろう。

妻を無視して勝手に結論を出せる筈ないじゃないか。

妻よ!

俺は君と一緒に晩ご飯を食べるのが嫌だという訳ではないぞ。

一番最初のことを忘れてただけなのだ。

この二十年を何か勘違いしてただけなのだ。

何の保証もない努力を揚々と受け入れてくれた妻よ!

解った。

餓死はやめる。

努力を続ける。

どうなるかは解らないけど。

年をごまかして就職活動したあの時のように、あの時と何も変わらず。

でも、続けるよ。あの時始めなければ俺の辞書にはなかったこの言葉を。これからも。

解った。

じゃあ、一緒に晩飯を食べよう。





でも、ちょっと太り過ぎだから、少し控えめにさせてくれ。それだけはお願い。