klimbrothers’s 童話と絵ブログ

本当ハ面白イクリム童話と絵描きグスタフクリムのブログです。

草枕

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家にあれば笥に盛る飯を草枕旅にしあれば椎の葉に盛る



今は携帯が圏外になるだけで不便を愚痴ったりする。

あの時、電気も都市ガスも水道も止まったあそこでは違った。

隣のお爺ちゃんは山へ芝刈りに行くみたいに

一日歩き回って食べ物を探した。

僕たちにも分けてくれた。

隣のお婆ちゃんは川へ洗濯に行くみたいに

一日無茶苦茶になった部屋を掃除し続けた。

テレビや新聞で情報を受け取るだけだった側の人々も

小学校の壁新聞のようなメディアを創って

あそこでは井戸水が湧いています・・・

あそこのお風呂屋さんが営業を再開しました・・・

と情報を発信し続けた。

瓦礫の山から人を救い出しているのは隣近所の人々だった。

テレビを見ていたら、もう僕は死んだだろうと思った

友達と電話で連絡がとれただけでもちろん嬉しかった。

でも、あのただ中にいた僕が見て経験したものは、

テレビが発信する情報から友達が受けた印象とは全く違っていた。

がれきの山となった町中を歩く人々の顔はけっしてやつれていなかった。

すれ違う若い女性の頬の赤さに生きる喜びも感じた。

家がないのに残った酒で酒盛りをして、酒を振る舞って生き残ったことを祝う人々にも心和んだ。

まるで、原始時代に帰ったようだ。

システムの中で約束を守るだけとは違う人が生きる原始的な力を、その素晴らしさを垣間見た。

時計は止まったままだった。

百万人の人がいれば百万の違う真実があり、百万の違う経験があるのだから

これは私個人の小さな小さな経験です。それを思い出しました。

生き残った私の・・・。

どうぞ、命を救って下さい。

ボートではなく流れて来た畳に筏のようにしがみついて行きようとしている人々を。

流れて来たドラム缶に流れて来た流木を入れ火をつけて暖をとり生きようとしている人々を。

病気と闘っている人々を。